2019年は佐渡裕&シエナ・ウインド・オーケストラによる「ブラスの祭典」と銘打ったCDシリーズの発売20周年にあたります。
東北地方を中心としたツアーは2019年12月24日の文京シビックホールでの公演が最終日となりました。
そのプログラムを中心として演奏曲をふりかえってみましょう。
佐渡裕×シエナ<ブラスの祭典>2019ツアー
(出典:シエナ・ウインド・オーケストラHP)
2019年のツアースケジュールは以下の通りでした。
12/15(日) 14:30開演 けんしん郡山文化センター(福島県)
12/17(火) 19:00開演 足利市民会館(栃木県)
12/18(水) 18:30開演 リンクステーションホール青森
12/19(木) 18:30開演 岩手県民会館
12/20(金) 18:30開演 湯沢文化会館 (秋田県)
12/21(土) 14:00開演 シェルターなんようホール(山形県)
12/24(火) 19:00開演 文京シビックホール(東京都)
東京公演の概要とプログラム
日時:2019年12月24日19:00開演
会場:文京シビックホール 大ホール
指揮(お話):佐渡 裕
演奏:シエナ・ウインド・オーケストラ
第1部
オリンピック・ファンファーレ&テーマ:J.ウィリアムズ/小長谷宗一編曲
朝鮮民謡の主題による変奏曲:J.B.チャンス
華やかなファンファーレによるオープニング、そして、息を呑むほどの美しい弱音のテーマから後半のキレキレのリズム感を湛えた変奏曲とブラスらしい華やかな演奏で幕開けしました。
第2部 “音楽のおもちゃ箱”~佐渡裕のトークと音楽
普段は「学芸会みたいなことをするのですが」(佐渡さん弁)、今回は「吹奏楽コンクールの課題曲をふりかえってみる」という趣向で、佐渡さんのお話に続いて各曲が演奏されました。
1974年課題曲B 高度な技術への指標:河辺公一
マーチがその中心だった吹奏楽コンクールの課題曲の中へ、そして真剣勝負ともいえる緊迫したコンクールのステージに、ドラムセットが置かれ、ポップスが演奏されるということを新鮮な驚きを感じた中学一年生の佐渡少年だったそうです。
ちなみに、佐渡さんの在籍された中学校は「高度な技術がなかった」のでこの曲は演奏していないそうです。
その年に京都で開催された「関西吹奏楽コンクール」高校の部で淀川工業高校(当時)がこの曲の冒頭の超高難度のトランペットを颯爽と演奏するのを聴き、カッコいいと思われたとか(淀工はこの年に全国大会初出場を成し遂げました)。
1976年課題曲D ポップス描写曲「メインストリートで」:岩井直溥
先ほどの「高度な技術への指標」の2年後には、吹奏楽ポップスの父と言われた岩井直溥さんの作品が課題曲になりました。
中学三年生になった佐渡少年は吹奏楽コンクールでこの曲の「フルートソロ」を担当されたそうです。
今回のコンサートでもフルートソロは佐渡さんが演奏されました。
1977年課題曲C ディスコ・キッド:東海林修
当時ちょうど「ディスコミュージック」の時代を迎え、課題曲にも「ディスコ」が登場します。
1987年課題曲A 風紋:保科洋 2004年課題曲Ⅰ 吹奏楽のための「風の舞」:福田洋介
その後、吹奏楽コンクールの課題曲も「和の世界の表現」「日本的なもの」へと目を向けるようになってきました。
第2部の最後は「文京シビックホール20周年」を記念して、同ホールを本拠地とするシエナWOと文京区内の小中学生79名(小学校1校、中学校5校)が合同でおなじみの「アフリカンシンフォニー」を演奏しました。
第3部
ラストステージは吹奏楽のど定番ともいえる曲が並びました。
キャンディード序曲:L.バーンスタイン/C.グランドマン編曲
エルザの大聖堂への行進:R.ワーグナー/L.カイエ編曲
吹奏楽のための第1組曲:G.ホルスト
エル・カミーノ・レアル:A.リード
キャンディードは佐渡さんがMCを担当された「題名のない音楽会」のテーマでおなじみ、エルザも定番、ホルストの1組もしばしば演奏されますが、エルカミを佐渡さんのタクトで聴くことができたのは貴重だと思われます(以下リンク先の演奏も金聖響さんの指揮によるもの)。
演奏曲と吹奏楽コンクール
プログラムの中から吹奏楽コンクールで採り上げられた曲をピックアップして見ていきましょう。
朝鮮民謡の主題による変奏曲
この曲は、1974年に関東代表の名門富士吉田市立明見中学校と関西代表の兵庫県立兵庫高校(初出場)が揃って、初めて全日本コンクールで自由曲として演奏しました。
両校とも結果は銀賞でしたが、特に1974年の中学校の部は粒揃いと言われ、金賞を受賞した5校のほかにも優れた演奏があり、明見中の演奏もその一つといわれています。
富士吉田市立明見中学校
兵庫県立兵庫高校
高度な技術への指標
1974年の全日本コンクールでこの曲を課題曲とした中で、金賞を受賞したのは関西代表西宮市立今津中学校、阪急百貨店、東京代表駒澤大学、瑞穂青少年吹奏楽団でした。
いずれも個性の光る演奏ばかりです。
この年の中学校の関西代表3校(今津、三木市立三木、西宮市立上甲子園)の課題曲はいずれもこの曲、高校の部でも天理、淀工が採り上げており、阪急も含めてノリノリの土地柄がよく表れているようです。
西宮市立今津中学校
駒澤大学
阪急百貨店
瑞穂青少年吹奏楽団
ポップス描写曲「メインストリートで」
この曲を課題曲とした中で金賞を受賞したのは、西部(当時)代表福岡県ブリヂストンタイヤ久留米、東京代表瑞穂青少年吹奏楽団、北海道代表旭川交響吹奏楽団でした。
ブリヂストン久留米
瑞穂青少年吹奏楽団
旭川交響吹奏楽団
ディスコ・キッド
東京代表駒澤大学、瑞穂青少年吹奏楽団と西部(当時)代表福岡県ブリヂストンタイヤ久留米が金賞。
駒澤大の演奏はリズムのノリも曲の作りも個性的で、クラリネットのソロもアドリブになっています。
前奏に続いて「ディスコ!」と叫ぶのはこのチームが最初だとか聞いたこともあります。
一方、同じ東京代表の瑞穂青少年の演奏は正に正統派で気持ちの良いくらいのリズムのキレを感じますね。
同じ意味で亜細亜大学の演奏も素晴らしいものでしたが、惜しくもタイムオーバーで失格となりました。
駒澤大学
ブリヂストン久留米
瑞穂青少年吹奏楽団
風紋
この曲を課題曲として金賞となったのは、関西代表西宮市立今津中、大阪市立城陽中、関東(当時)代表千葉市立土気中、神奈川大、東北代表弘前市立第三中、東海代表静岡県立浜松商業高、愛工大名電高、三重大、東京代表中央大、北海道代表札幌吹奏楽団でした。
吹奏楽のための「風之舞」
この曲では関西代表伊丹市立天王寺川中、生駒市立生駒中、天理高、創価関西、大津SB、北陸代表辰口町立辰口中、四国代表松山市立南中、九州代表鹿児島県立松陽高、東関東代表常総学院高、柏市立柏高、西関東代表埼玉県立与野高、文教大、東京代表創価グロリアが金賞を受賞しています。
テレビ番組で取材を受けて、丸谷先生が「おまえらこの曲おもろない思うてるやろ」「おもろせい」「トントントンピーヒャラトン」とおっしゃっていた淀工の演奏をどうぞ。
キャンディード序曲
この曲からは自由曲になります。
全日本コンクール初演は、1964年関西代表の関西学院大学で見事第1位に輝いています。
指揮は後に兵庫県立尼崎西高校を率いて全日本に何度も出場された中村弘之さんでした。
エルザの大聖堂への行進
この曲といえば古いファンには「豊島十中」が定番ですが、調べたところ全日本初演は1964年の古豪船橋吹奏楽団でした。
その後、1966年に東京代表豊島区立第十中学校が第1位を当時の王者今津中から奪ったことで話題になったそうです。
この曲はブリヂストン久留米や沖縄県立首里高校も金賞を受賞しています。
金賞ではありませんでしたが、10年後の四国代表菊間町立菊間中学校の演奏も素晴らしいものでした。
吹奏楽のための第1組曲
この曲ははるか昔、関西代表の明石高校OB吹奏楽団が1959年に演奏して第3位を受賞しています。
那覇市立那覇中やブリヂストン久留米も演奏していますが、金銀銅表彰制になって以降の金賞受賞はありません。
エル・カミーノ・レアル
この曲の全日本初演は1986年で、北陸代表福井大、富山WE、中国代表NTT中国です。
金賞受賞した団体は今までのところありません。
テレビドラマ「仰げば尊し」でモデルになった神奈川県野庭高もこの曲を演奏しています。
ドラマでも吹奏楽コンクールの自由曲となりました。
思いの強い、心のこもった素晴らしい演奏でしたが、本当に惜しくも関東代表には選出されませんでした。
まとめ
シエナWOのプログラムに沿って過去の吹奏楽コンクールをふりかえってみました。
時代は変わって、ここに挙げた曲が自由曲として採り上げられることは本当に少なくなってしまったようです。
また、課題曲からもポップス系の曲は姿を消してしまいました。
吹奏楽コンクールも何年かに一度のサイクルで大きな変化が起きているようですので、今後の動きが見逃せませんね。
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