ピアニストの務川彗悟さんの2枚目のソロ・アルバムが2020年9月7日にリリースされました。
このアルバムは2度にわたり延期された浜離宮朝日ホールでのリサイタルの際にもひっそりと販売されました。
今回は、収録曲などについてみていきます。
最後までよろしくお願いいたします。
務川彗悟「ショパン|ラフマニノフ|ブーレーズ」
アルバム収録曲
ショパン(1810〜1849)
01 ボレロ ハ長調 作品19
02 バラード第1番 ト短調 作品23
03 ノクターン第18番 ホ長調 作品62-2
ラフマニノフ(1873〜1943)
楽興の時 作品16
04 1. Andantino
05 2. Allegretto
06 3. Andante cantabile
07 4. Presto
08 5. Adagio sostenuto
09 6. Maestoso
ブーレーズ (1925〜2016)
10 アンシーズ(2001年版)
演奏:務川慧悟(ピアノ)
録音:さいたま芸術劇場 音楽ホール(2020年2月19〜21日)
収録作品を採り上げたコンセプト
アルバムのブックレットには記載がないようですが「ぶらあぼ」の取材では、今回のプログラムの中心がブーレーズであることやラフマニノフは藝大当時がよく弾いていたのにパリ留学以降弾く機会が減り、今回ぜひ弾きたいと考えたことなどをお話されています。
また、素晴らしく明るい色彩に満ちたところから、次第に淡く霞み、最後にはまったく無機質なところへ落ちてゆく」(「ぶらあぼ」より引用ママ)というコンセプトを忍び込ませたとのことです。
プログラム全体の流れについても触れられていますので、ぜひご一読ください。
収録作品について
ショパン:ボレロハ長調作品19
1833年(出版は1834年)、ショパン23歳のときの作品で、エミリー・ドゥ・フラオー伯爵令嬢に捧げられました。ボレロといえばラヴェルの作品を想起しますが、この作品のアレグロ・ヴィヴァーチェに出てくるリズムはポロネーズそのものです。
ショパン:バラード第1番ト短調作品23
1831年から35年にかけて作曲され、シュトックハウゼン男爵に献呈されました。ポーランドの詩人ミツキェヴィッチの詩からインスピレーションを受けたともいわれています。
この作品は映画やドラマにも使われていますが、フィギュアスケートの羽生結弦選手がショートプログラムのBGMで使用したことは記憶に新しいところです。
ショパン:ノクターン第18番ホ長調作品62−2
1845年(出版は1846年)のときの作品で、生前最後に出版されたノクターンの一つです。R・ドゥ・ケンネリッツ嬢に献呈されました。
ラフマニノフ:楽興の時作品16
1896年に作曲した6曲からなる作品集。奇数番目の曲はゆっくりと、偶数番目の曲は対照的にきわめて速いという構成になっています。
シューベルトによる同じネーミングのピアノ組曲から着想を得たとされています。作曲当時のラフマニノフは経済的に切羽詰まった状況だったとのことですが、この洗練された作品は好評を得ました。
ただ、この時期に2年がかりで作曲した交響曲第1番ニ短調作品13(1895年)の1897年の初演が失敗に終わったことから自信喪失の時期に突入することになります。務川さんが反田さんとのデュオで披露された組曲第2番作品17は、そこから自信を取り戻しつつあった時期の作品です。
ブーレーズ:アンシーズ(2001年度版)
作曲家であり、指揮者でもあり、教育者、現代音楽の擁護者であったブーレーズによる1994年の作品を、2001年大幅に書き足した改訂版です。
務川さんはロン=ティボー国際コンクールのセミファイナルに演奏されたようです。数年弾かずにいると弾けなくなってしまうかもしれないので今回残しておきたかったと仰っています。
ちなみに、ロン=ティボーコンクール2019のセミファイナルの課題は以下の通りでした。
1. 以下の中から選択したピアノ五重奏曲
ブラームス:ピアノ五重奏曲ヘ短調第1楽章
フランク:ピアノ五重奏曲ニ短調第1楽章
ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲イ長調第1楽章
2. 以下の作品の中から1曲以上を選択(最小10分)
サン=サーンス:アレグロアパッショナートなど
フォーレ:夜想曲、舟唄など
シャブリエ:10の絵画的作品から
セヴラック:組曲「ラングドックにて」、セルダーニャ
デュカ:牧神の遙かな嘆き
メシアン:幼子イエスに注ぐ20の眼差しから
デュティユー:3つの前奏曲
ブーレーズ:12のノタシオン、アンシーズ(2001版)
3. 自由曲(単独楽章のみは不可)
(œuvre(s) interprétée(s) obligatoirement en entier – pas de mouvement isolé)
YouTubeで音源を探る
ショパン:ボレロハ長調作品19
(楽譜つき)
ショパン:バラード第1番ト短調作品23
(ミケランジェリ、ポリーニ、アシュケナージ、フランソワなど聴き比べ)
ショパン:ノクターン第18番ホ長調作品62−2
(シャルル・リシャール=アムランの演奏)
ラフマニノフ:楽興の時作品16
(6曲揃った音源)
ブーレーズ:アンシーズ(2001年版)
まとめ
務川さんらしい考え抜かれたプログラムのアルバムです。
アルバム1枚目のラヴェルやバッハで示された、繊細かつ美しく、多彩な一つ一つの音、それらを紡ぐことによって生まれる透明なサウンドが、このアルバムでは作品ごとに劇的に変化していく様子を楽しみました。
務川さんによれば、ラフマニノフは白黒、ブーレーズの作品は白黒すらない計算の世界とのことでしたが、極めて個人的な感想に過ぎませんが、僕はそれらの作品の演奏の中に「色」を感じました。
楽興の時では、本来は無彩色のグレーである筈なのに、なぜかピンクに見えるパリの曇り空のような明確な色ではありませんが、白ならば雪の下に隠れた、黒ならば夜の帳の中に感じるような「潜む色」が見えたように思います。
また、アンシーズでは、その昔アマチュアの吹奏楽団が現代音楽を演奏するようになってきた時期、アクロバット的に「凄い!」という段階を経て、次の段階に進もうとしたときに「こういった作品では、作曲家が与えた音を表現するためには、それぞれのパート(楽器)が各々本来の美しい音、響きを要求されているということを認識すべき」と指摘されたことを思い出してしまいました。
クラスター的なものであっても一つ一つの音におそらく意味があり、その音は与えられた色(音色)や響きをもって表現されるものであるとすれば、務川さんの演奏からは「色彩感」とは異なるのだろうとは思いますが、多彩な音や響きを湛えたものを感じました。ときおり「バシャっ!」とシャッフルされるようなデジタルっぽさを感じつつも、音楽の彩度を味わうことができたと思います。
ブーレーズはぜひホールで聴いてみたいと思いました(頼まれたら「嫌だ」と言いたい類の曲なのでしょうが)。
最後までお読みいただきありがとうございました。
👍 🎹とともに 🎼とともに 🤞
👋掰掰👋
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