この記事は2020年5月18、26日のエントリーに加筆したものです。
吉田修一さんの同名長編小説を原作とした土曜ドラマ「路(ルウ)」は遂に最終回が終わりました。
原作は、日欧共同の「台湾新幹線プロジェクト」を舞台として、直接間接に関わる日本人と台湾人の人生、心の絆を描いた小説です。日台の4組の登場人物(多田春香と劉人豪、安西誠とユキ、葉山勝一郎と中野赳夫、陳威志と張美青)が織りなす人間模様を描いています。
このプロジェクトを軸に、日本統治時代まで遡った背景を描きつつ、それぞれの人たちが繋がっていくありさまを綴った感動的な長編が、ドラマでどのように描かれるのか、最後まで興味津々でしたね。
登場人物やその人間模様とともに、ドラマに出てきた台湾のロケ地について調べてみました。
作家 吉田修一
原作は「横道世之介」や「怒り」でも知られる作家吉田修一さんの手によるものです。
吉田さんは、1997年「最後の息子」で文學界新人賞を受賞、これを皮切りに、2002年「パレード」で山本周五郎賞、「パーク・ライフ」で芥川賞、そして2019年には「国宝」で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞しています。多くの作品が映画化されています。
台湾との関わりは、初めて訪台した際、その気候や風土、そして雰囲気が故郷の長崎に似ていて自分に合うと感じ、その後何度も台湾に足を運んだとのこと。また、台湾で2008年に公開された映画「海角七号 君想う、国境の南」のエンディング、「野ばら」の合唱シーンに感動して「この映画がなければ「路」もなかった」とも語っています。この映画で描かれた「湾生」(日本統治下の台湾に生まれ、敗戦後強制的に帰国させられた日本人)が、本作でも重要なキーになっています。
登場人物とその背景
物語は4組の登場人物の人生を中心に進んでいきます。その4組をご紹介します。
多田春香(ただ はるか)劉人豪(リョウレンハオ 英語名・エリック)
商社勤務の春香は、受注に伴って台湾に赴任します、彼女は大学時代、初めて台湾に旅行したときに偶然出会ったエリック台北を案内してもらいます。エリックは意識する存在でしたが、別れ際にもらった連絡先のメモをなくしてしまいます。6度も訪台しますが手掛かりもなく、赴任を迎えました。
春香には、日本に婚約者ともいえる繁之がいます。今回の赴任をきっかけに、止まっていた春香とエリック、そして繁之を含めた新たな人生が動き出すことになります。
安西誠(あんざい まこと)とユキ
安西は春香と同じく商社で働く同僚、ユキは林森北路にあるクラブホステスの台湾人です。
新幹線開通に向け彼なりに尽力しますが、現地の南国気質に適応できず徐々に心と体を壊していきます。そのストレスからクラブに入り浸ることになります。ユキとの出会い、そしてやりとりを通して、安西のささくれだった心が和らいでいきます。国境を越えた人間同士の心の触れ合いが描かれます。
葉山勝一郎と台湾人の親友中野赳夫(日本名)
葉山勝一郎は日本統治時代湾で生まれ育った湾生です。戦後日本に強制帰国されて建設会社に務め、高速道路建設などに携わっていましたが、この時点では現役を引退して妻ともに余生を送っています。
勝一郎は、旧制台北高校の同級生で親友の台湾人中野に、妻をめぐってひどい一言(第二国民)を放ったことを後悔していて、台湾に対して蟠りがあり、訪台してみたらという妻の言葉にも二の足を踏み続けています。入院していた妻が急死したことをきっかけに、勝一郎は訪台して中野に謝ることを決意します。
若いときの過ちを抱えて悩み続けてきた勝一郎、そして彼の謝罪に対する赳夫の反応はどうでしょうか。時間の経過はかつての友情を取り戻してくれるでしょうか。
台湾人学生の陳威志(チャンウエイズー)と幼馴染の張美青(ツァンメイチン)
ここでは台湾人の若者の初恋が描かれています。
高校卒業後フリーターとして漫然と生きてきた威志とその幼馴染でカナダに留学中の美青。美青は日本人の子供を妊娠したことをきっかけに、やがてシングルマザーとして地元に戻ってくることになります。
威志はおばあちゃんの家に向かっていた時にグァバ畑で、長い間会っていなかった美青と再会します。そのグァバ畑にあった「台湾新幹線整備工場」となることを示す看板を二人が目にします。
のちに、その整備工場で威志は働くことになります。そして、美青との初恋はハッピーエンドとなります。
土曜ドラマ「路」のキャスト
多田春香:波瑠
安西誠:井浦新
山尾一:寺脇康文
葉山勝一郎:高橋長英
葉山曜子:岩本多代
池上繁之:大東駿介
有吉咲:草刈麻有
劉人豪(エリック):炎亞綸(アーロン)
ユキ – 邵雨薇
台湾料理屋のおばちゃん:林美秀
中野赳夫(呂燿宗):楊烈
ケビン:許光漢
林芳慧:安娜李
ジャック・バルト:Gary Edward Gitchel
レスター・王:梁正群
陳威志:李梓誠
張美青:吳玳昀
原作:吉田修一「路」
脚本:田渕久美子
音楽:清塚信也
「路」の結末は?(ネタバレあり)
5月16日の第1回放送では、春香とエリックが再会を果たす場面で終わりましたが、第2回放送では表面的には呆気なく別れるという展開でした。
文庫本で450ページ余ある長編を3話でまとめようとしているので、順番が逆になったり(勝一郎の奥さんの病死とエリックとの出会い)、日台の行き来が少なく一度に詰め込んだ感(勝一郎と中野との再会)もありました。また、設定を変えている(花蓮(原作では太魯閣)訪問の相手、繁之の勤務地、レスター王の存在)ところもあります。
果たして、明らかにハッピーエンドだとわかったのは威志と美青、勝一郎と中野も昔の親友という姿を取り戻しました。安西とユキはおそらくあの先があってハッピーに暮らしていくようなエンディングでした。もっとも難しいのは繁之と別れた春香とエリックでしたが、高鐡の車内で握り合った手は幸せを表しているように思いました。繁之は7年待って別れることになってしまったわけですが、エリックは13年待ったわけですから。
脚本を担当した田淵さんのブログによると、もともと3話完結だったようですが、それ以上だと中国ウイルスの影響で収録ができなかったようです。いずれにせよ、視聴者に想像させる、いや想像できるというのは台湾の映画やドラマではよくあるように思いますし、原作も春香とエリックについては結末を描かずにふわっと終わってますから、これでよかったのだと思います。
第2回で高鐡を辞めることになった王さんは、開業が遅れて苦境に立ったところで復職を依頼され、大活躍でした。一ヶ月間の無事故試運転をメンバーに宣言する場面は胸が詰まりました。格好良かったですね。
なお、出演した台湾の俳優の皆さんへのインタビューの模様がYouTubeで公開されています(日本語字幕あり、かなり見づらいですが)。
原作との違いなど興味を持たれた方はぜひ読んでみてください!
台湾でのロケ地情報など
第一話
春香の歓迎会
歓迎会終了後の出口に「詹記」という看板が出ていましたので「詹記麻辣火鍋」だと思われます。ただ、店内の様子や外観を見ると、松江南京の南京店ではなさそうです。内装は敦南店っぽいのでロケは敦南店で、そして散会の場面は、二次会の開かれた林森北路のどこかのビルに看板を立てて収録されたのではないかと思われます。
二次会会場
ドラマに出た店名「CRYSTAL」は確認できませんでしたが、春香と安西が上司の山尾に連れられて歩いていたのは林森北路です。林森北路107巷にあ麻辣火鍋の「東道煮」の大きな看板が確認できました。
春香の初訪台のときに宿泊したホテル(&再会場所)
テレビ画面では「台北頭領大飯店」とCGか何かで「頭領」と変えられていましたが、あのホテルはインペリアルホテル(台北華国大飯店)でしょう。
二人の出会いのときの移動コース
ホテルに宿泊した翌朝、春香がエリックを見つけたのは「老牌牛肉拉麵大王」でした。
老牌牛肉拉麵大王 → 総督府 → 龍山寺 → 迪化街 → 李家榕樹下快炒
夕食を一緒にしたお店(林美秀さんがおかみさんをやっていたお店)は「李家榕樹下快炒」です。
レスター王と春香が食事をしたお店
師大路117巷を手がかりに調べてみたところ、龍泉市場の反対側の出口にある「龍泉深海鮮魚湯」ということがわかりました。
第二話
勝一郎と中野が再会した際に訪れた公園
台湾師範大学の近くにある泰順公園だと思われます。
公園から走っていく勝一郎は温州街16巷18弄の商店の間を抜けて(おそらく)ガジュマルの木に向かい、その先の温州街16巷に出て「風呂屋とたばこ屋」の話をしています。原作では、西門から淡水河に向かって進んだところで、その話をしていますが、放送ではこのあと川沿いの公園に場面が変わりました。
二人が通っていた旧制台北高校は今の師範大学で、温州街はかつて日本人が多く住んでいた昭和町(※)の一部なので、ドラマの設定の方が自然な感じもしますね。
(※) 昭和町:MRT東門駅の5番出口から出て永康街を突っ切って進んで、青田街、そして広い通りの和平東路を超えた温州街のあたり。日本統治時代に日本人が多く住んでいたところです。
花蓮原住民のお祭り
原住民アミ族の阿美族豊年祭でした。
原作では、花蓮ではなく太魯閣へ、そして春香と林芳慧ではなくエリックが、一緒に行ってますね。
春香と林芳慧が一緒に行った海岸
景勝地の七星潭風景區でした。
高雄での700系陸送パレード
さすがNHK、2004年のパレードの映像を出してきましたね。こちらのサイトで丁寧に解説してくださっています。
最終話
勝一郎と中野が訪れていたお茶屋さん
お茶以外はお茶菓子も含め置いていないという茶葉一筋の100年の歴史を誇る名店です。ご主人がドラマ出演されていました。
徳興茶業有限公司
台北市大同區重慶北路二段70巷13號
繁之と春香が待ち合わせたMRTの駅
エスカレーターで降りてきたところで二人が待ち合わせたのは、現在の「南京復興」駅です。
ただ、あの当時は高架の文湖線だけが通っていて、駅名も「南京東路」駅でしたから、きちんと時代考証されていますね。
松山新店線の開業に伴って2014年に「南京復興」に改名されました。
レスター王がジャックに復職を依頼された宵夜清粥の屋台
お店の看板などヒントにならないかと目を皿のようにして見てみましたが、力尽きました。
萬年春名茶の看板が見えたので、台北ではなく新北、板橋あたりかなと夜市なども探してみたのですが見つけられませんでした。
王さんを演じたダニー・リャンは今回日本で人気沸騰しているみたいですね。
ツイッターを見ると広島カープのファンのようです。
So this was taken in February when my friend Miyuki took me to this place that sells all kinds of stuff from Hiroshima. I’m only posting now ‘cause I still can’t believe I didn’t get a Hiroshima Carp hat!🙀#広島カープ pic.twitter.com/DoRvnGWdBL
— 梁正群 (@DoctorPi) 2020年5月24日
まとめ
ローマの休日さながらにスクーターで二人が移動した台北の街中はもちろんですが、高雄近郊のグァバそのほかの果物の畑と強い日差しとスコール、そして屋台や熱炒の美味しそうな食事、アミ族のお祭りなど、日本に居ながらにして台湾を満喫できるドラマになっていました。
最終話では、打って変わって高鐡の開業にスポットをあてた展開でしたが、運転司令所を見ることができたのはラッキーだったのではないでしょうか。
去年日本でも放映されたドラマ「年下の彼氏」に出演していたグレッグ・ハンが演ずるケビン、第2話までは目で演技するだけでしたが、最終話では遂に言葉を発しました。それも全部日本語で。ちなみにグレッグは日本語はまったく話せないそうです。また、ユキ役のシャオ・ユーウェイは、基隆の実家に戻って魚を捌いているところで「華麗なるスパイス」の屋台のお姉さんとぴったり重なりました。
あっという間の3週間で名残惜しいですが、また日台合作でドラマや映画ができれば良いなと思います。次回は上から目線にならないようにして欲しいですが。
ロケ地については注意して調べましたが、続報や修正があればご指摘ください。あと、冒頭の高鐵車内で林美秀さんが食べていたサンドウィッチ、どのお店のものなのか気になりました。
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