いつもこのブログ「音楽徒然草」をお読みいただきありがとうございます。
今回は2016年7月に亡くなられたピアニスト中村紘子さんの評伝「キンノヒマワリ」について、今さらですがお話していきます。
高坂はる香さんについて
この評伝の著者高坂はる香さんは、記憶に新しいところでは、2021年のショパンコンクールや2022年6月のヴァン・クライバーンコンクールのレポートなど、クラシックピアノファンにとってはピアニストファンを繋ぐ存在です。
プロフィール(集英社HPより引用)
埼玉県生まれ。フリーランスの音楽ライター、編集者。中央大学法学部卒業後、一橋大学大学院社会学研究科修士課程でインドのスラム支援プロジェクトを研究。そののちピアノ音楽誌の編集者として、世界のコンクールやピアニストを数多く取材。ショパン国際ピアノコンクール、チャイコフスキー国際コンクール、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールなど長期取材を各誌に寄稿。セミナー、ラジオにも活躍の場を持つ。(引用終)
キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶
本書は以下の構成になっています(目次)。
序
第1章 中村紘子のキャリア確立
戦後の混沌が生んだ最高の教育環境〜子供のための音楽教室
振袖を着た天才少女
単身海外へ〜ジュリアードでの苦労とショパンコンクールでの成功
第2章 時代の流れとともに特別な存在となっていった中村紘子
高度経済成長とバブル景気
彼女が憧れになるまで
天は二物を与える〜中村紘子の文才
戦後の女性として生きていく
第3章 中村紘子の音楽
ステージに立つ中村紘子
レパートリーが物語る、中村紘子の想いと音楽性
中村紘子が求めた音
第4章 ピアノ界を牽引、指導する立場となった中村紘子
業界のオピニオンリーダーとして
社交の女王
コンクール審査員界の顔になる
浜松国際ピアノコンクール
日本の若手を育てることへの情熱
お茶目な親分は、嫌われ役を恐れない
第5章 中村紘子が育てた日本のピアノ界と今後
無念の審査委員長退任〜そして新たな夢
アンチ「出る杭は打たれる」の意思をつないで
おわりに
中村紘子〜唯一無二の太陽
あとがき
読後感
2019年1月の筆者の読後感を転載します。
子供の頃から「オーケストラがやってきた」や「ピアノのおけいこ」のテレビ番組はもちろん、神戸国際会館でのリサイタルも聴きに行ったりと、耳にする機会は山ほどあった中村さんの演奏。それだけ聴いていたにも拘らず僕の心は掴まなかったようで、「同じ曲ばっかり弾いてる」「ここは目を瞑って弾くところじゃないと言ってる癖にご自分は目を閉じて弾いてる」とか「ピアノ弾くよりカレー作ってた方が良いんじゃないの」等々相当酷いことを言ってきた覚えがあります。
一方で、その著作はコンクール、蛮族、冒険等々どれも興味深く、深い洞察と考察に溢れ、そして楽しいものが多く、全部読んだという自信はありませんが、ほぼ網羅しているのではないかと思います。本当に頭の良い人だなぁと思うと同時に「ピアノ弾かないでペンを持っていた方が良いんじゃないの」とか、また悪いことを言っていたような。
この高坂さんの著作では、僕の悪い頭の中で断片でしかなかったそれらのことが、実は深く繋がっていたことが上手く纏めて書かれていて、正に目から鱗でした。後に続くピアニストの発掘を始め、公演で訪れた地方への文化的な貢献や社会的政治的な活動までなさっていて、頭が良くてパワフルな生き方に頭が下がる思いです。
そして、周りの人に対するホスピタリティがしっかりあって、細やかな心遣いが当たり前のようにできる方だったというくだりでは、なるほどと思わず頷いてしまいました。
お安いマスコミ的な言われ方はご本人はきっと大嫌いだと思いますが、これほどまでに「カリスマ」性を備え持った人はいないのではないでしょうか。思い込んだら的な突き進み方もなさったようですから、反発もあったのだろうと思います。浜松の審査委員長を退かれたのも中村さんの意思ではなかったように読めましたが、ちっちゃな男や快く思わない人たちの嫉妬があったのかも知れません。
癌を発症されたときにも、この人は絶対に死なないよとかこれまた憎たらしいことを言ったこともありましたが、それはそのパワフルな生き方を拝見していたからでもあります。僕は本気でそう思っていた節もあり、突然の訃報には茫然としてしまったことを覚えています。
あれだけのことをやろうと思う、そしてそれを形にする、そんな実行力のある日本人ピアニストが今後現れるのか。素晴らしい演奏を聴かせてくだされば、僕はそれでも幸せですが、自分の世界だけに閉じこもるピアニストばかりで大丈夫なの?と思うところもあります。
(追記)
そして、中村紘子さんが亡くなられた7月26日(ちなみにお誕生日は7月25日)に改めて読み返してみたところ、ちょうど自伝とも言える著作が刊行された反田恭平さんの現在の姿を中村さんがご覧になったら、どう思われるかなとふと思いました。
キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶
高坂はる香著 集英社
まとめ
実は今でも中村さんが「みなさま、ごきげんよう」と姿を現わすのではないかと思うことがときどきあります。
そして、そのバイタリティはもっと若い世代に姿を変えて引き継がれているような気がしています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
👍 🎹とともに 🎼とともに 🤞
👋掰掰👋
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